大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和25年(う)744号 判決

原判示事実は原判決挙示の証拠により之を認むるに十分でありその法令の適用も亦正当であつて記録を精査するも原判決には事実誤認又は法令の適用を誤つた違法はない弁護人は本件の金五万円は権利金ではなく営業権の譲渡による対価である旨主張するのであるが地代家賃統制令において借家権利金とは賃借権者が賃借権設定の結果その不動産所在地を利用することによつて享有する場所的利益に対する対価であつて使用の対価である家賃以外のものをいうのであり、いわゆる営業権やのれん代等の内容をなす営業上の経験、秘訣、声誉、得意先又は仕入先関係等場所的利益以外の営業上の利益に対する対価は右権利金に含まれないことは当然であるが右以外の賃貸借契約締結の際貸主に支払われる場所的利益享有に対する対価の性質を有するものはすべて右権利金の範囲内に入るべきものと解すべきところ本件の金五万円は所論自体に照してもこれを右説示の如き営業権の対価であるとは認め難く却つて家の賃貸借契約の際に貸主に支払われた場所的利益享有のみに対する対価の性質を有することが一件記録並びに原審の取調べた証拠により明白である。従つて原審がこれを権利金と認定したことは正当であつて論旨は採用に値しない。

(弁護人の控訴趣意)

一、原判決は法令の適用に誤りがある。

原判決は被告人が店舗に依り菓子販売業をなし一日百五十円位の利益があつたのを止めて矢田部望に賃貸するに当つてその失ふべき収入を補償するため賃貸期間一年分五万円(月四千五百円)として支払つたと言ふ事実に対して被告人が店舗六坪二合五勺を矢田部に賃貸するに当り権利金名義で金五万円を受領したと認定し之に地代家賃統制令第十二条の二に違反するとして罰金四万円に処せられた。

処が本件金五万円の授受は借家権利金ではない、被告人は昭和二十四年八月までその居所に於て本件店舗によつて菓子類の小売営業を為していた処健康を害し仕入に困り休業状態であつた処矢田部が野菜類の販売をするため店舗の賃借を申入れたので賃貸することにしたがその際矢田部から被告人に店舗を貸した後被告人の唯一の営業の収入が皆無になり生活に窮することに至るを知り且つ被告もそのことを話し自己の営業の譲渡をして一ケ年の収益四万五千円乃至五万円を補償する意味を以て生活の補助を求め矢田部は之を承諾して五万円を交付したものである。

唯之に対し矢田部及補償を求める被告人も法律知識に乏しいのと意思表示が単に権利金なりと供述したこの点を捕えて借家権利金と誤つて認められたのである。(中略)

地代家賃統制令第十二条の二は借地借家権利金としてその授受を禁止しているのであつて商人の営業権の譲渡(賃貸)を禁止するものでないと共にその補償も禁じている事実はない、若し之を禁ずるとすれば憲法第二十九条に違反し統制令は無効である従つて営業の譲渡は有効で右違反となるものではない。

従つて原判決は営業権の譲渡金を借家権利金と誤認して被告人の右譲渡行為を賃貸借契約と同時になされた事実のみに重きをおいて借家権利金と誤つて同令第十二条の二を適用されたもので右法令の誤解は被告人の違反でない行為に違反として同罰条を適用されたのであるから右法令の適用に付き誤りとなつたものであり右適用の誤りは違反でない行為を違反とする判決に影響を及ぼすことが明であるから破毀を免れないものである。

二、右の如く原判決は違反でない適法行為を違法な行為として事実の誤認であるから勢い法令の適用にも誤りを来たしたもので重大な事実の誤認であり被告人の行為は適法であるから犯罪とならないのに之を犯罪としたのであるから之亦判決に影響を及ぼすことが明かであると言はなければならない従つて原判決は破毀さるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!